栃の実物語(2)
そこで、栃の実を触らしたら名人と云う栃餅作りの達人、
清左のカヅ子さんに指導してもらい、体験をすることにした。
先ず山で拾ってきた実は一晩水につけて、浮くものは捨てる。
天気のよい日に筵に広げて干す。
秋の日差しは湿気が少ないのでよいと言う。
実がかんからに乾いたら、米の空き袋に入れて保存する。
昔は馬笊に入れて保存していたと云う。
これを食べられるように加工するには
先ず乾いた実を水につけて戻す。
水がさらさらと流れている小川に10日ほどつけてから、
柔らかくして皮を剥く。
筵に広げて干されている栃の実
9月頃、軒先で干してあるのをよく見かけます
子供たちは、この皮を剥くところから体験した。
皮を剥く道具が、これがまた何十年も
使い込まれた代物であった。
いかにも単純な作りで、台になる平らな木の上に
曲がった木を先のほうでくくりつけただけのもので、
斜めにこぜながら皮を剥くのである。
上から押すと実はつぶれるだけで、
皮は一向に剥けなかった。
子供たちの苦闘が始まった隣で、
達人がしょこ、しょこと簡単に剥いて見せた。
単純な道具ほど使いこなすのに
こつがいるのだと知らされた。
栃の皮むき道具
片方を足で踏んでおき、栃の実を挟んでこじらせる
お婆さん用とお爺さん用の二つが並べて干してありました
皮を剥いて少し渋皮のついた実は
冷たいさらさらと流れる小川に
布の袋に入れて3昼夜つけられる。
左近谷のとば口のところが少し深くなっていて
浸けておくのに丁度よい
こうしてみると、いかにきれいな水が流れている環境でないと
出来ないかが分かった。
しかし、この工程まではさほど難しいことではなかった。
水にさらした栃をたっぷりの水で3時間ほど煮る。
この写真を撮った時は約4時間煮ておられました
煮上がった実を食べてみたら、やはり苦くてエグい
そして湯が冷めやらぬうちに、木灰を入れる。
灰の量は栃の実と同量だと聞いた。
灰と栃を混ぜて、こってりとした状態で暫くおく。
煮たあとは45〜50°になるまで冷まし、灰を混ぜ合わせる。
手を浸けて十数えられるくらいの熱さ、とのこと。
灰の量はこのトロ箱一つにつき三升。混ぜ終わるとちょうど45°Cだった。
このまま蓋をしてゆっくりと冷ましていき、一昼夜おくと渋味がなくなる。
これを川で洗って、灰をきれいに流して取れば
栃の実は食べられる状態になると言う。
この工程を「栃に灰を合わす」と呼ぶ。
この工程は非常に難しく、達人の奥義が
如何なく発揮される部分だった。
栃の煮る具合と、灰を入れる頃合いと、
木灰その物の質あたりが重要であるらしい。
達人は「なんにも難しいことやないんや」とおっしゃるが、
子供たちには勿論のこと、
私たち素人には手の及ばぬ技だった。
ちょっとした灰の仕方によって
苦くてとても食い物にならなかったり、腑抜けのようになって
味も素っ気もないものになったりすると聞く。
ちょうどよい加減というのが達人の域であり、
この辺が灰の良し悪しで決まるのだろうか。
ただ達人の手際のよさを見て
みんな感心するばかりであった。
栃の実物語(3)につづく
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