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2009年10月25日 (日)

栃の実物語(1)

以前おおい町文化協会発行の広報誌に掲載された、渡辺 均氏『栃の実物語』の内容に写真を追加し、3回に分けて掲載します。

 

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なめり谷の栃の大木(平成21年6月撮影)

 

佐分利川に沿ってこの谷を奥へ入ると、

久保と川上の山にだけ大きな栃の木がある。

どういうわけか佐分利川の右岸側の山で、

北側を向いた斜面にのみ生えている木である。

川上の山には何本もあるが、

村の古老の話では幹周りが5~6メートルにもなり、

樹齢が何百年になるか分からない木があると云う。

しかしどの木も谷の非常に険しい所に生えていて、

木の元まで行くのが難儀である。


永い間、厳しい風雪に耐えて生き残っている栃の木が、

春になると『ぱあっ』と白い花を木一面に咲かせて、

九月になると実を落とし始める。

昔から自然の食べ物の中に、栗・椎・楢・榧・栃などがある。

山栗は今ではほとんど枯れて少なくなり、残っていても

栗は猪の餌になって人間の口にはなかなか入らなくなった。

しかし栃の実だけは猪も食わないし、

虫もあまりつかないようである。

したがって人間の口に入るわけだが、

野性の生き物が食わないものを、

どうして人間がこれを旨くして

食べえるのだろうか・・・。

そのへんの人間の知恵を探ってみることにした。

 

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栃の葉(これで一枚の葉っぱ)と栃の花

 

体験1

栃の木ってどんな木だろう、

栃の実ってどんな実だろうと思う人が多い。

文化少年団の中にも、子供は勿論のこと

その親さえも知らない人がほとんどであった。

以前なら栃の木の有る所なんて

子供はおろか町の人では行けたものではなかったが、

今は林道が出来たお陰で、容易くたどり着くことが

出来るようになった。

一面に生えている山の木の中でも

栃の木だけはどの木よりも飛びぬけて大きい。

その大きさにみんな一様に「大きいなあ・・・」と

驚きの声を上げた。

しかし、これよりも、もっともっと大きな木があるのだが、

そこへはあまりにも険しくて、

とてもたどり着けるものではない。

 

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栃の実は昔の貴重な食料、炭焼きの人も切らずに大切に残しておいた。
それで他の木よりもひときわ大きい。


十月に入ってからのことであったから

もう実が終わっているかと思ったが、

晩生の木の実がまだ少し残っていた。

子供たちは、手に10個、20個と、

山の中を駆け回って拾ってきた。

拾った実は、一見して栗の実に似ている。

鎌で皮を剥いて、子供たちに実をかじらしてみた。

みんなが「げぇっ、げぇっ」と吐き出した。

苦くて、えがらかったのはいうまでもない。

「何でこんなもんが、食えるんや」とみんなが声を上げた。

さて、それを美味しく食べられるようにするのが

人間様の知恵であった。


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栗饅頭のようにつやつやして、一見するとおいしそうな栃の実
実(種子)は右の写真のように固い果皮にくるまれている

 

 栃の実物語(2)につづく

 

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