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2009年3月23日 (月)

つちのことの出会い

(ふるさと探訪 第1回 一止太郎氏「つちのことの出会い」より)


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滝ヶ谷ひとつめの滝。遡上するとまずこの滝に出会う

“幻の蛇”と謂われている「爬虫類」について、古来当川上の山野に生息していてその生態をみたと云う古老達の見聞記を聞いて少なからぬ興味を持っていた。斯申し上げる私も亦どうしたことか、この幻と呼ばれる生物と出会う機会を得たのだ。

その時期は昭和30年代後半の夏の暑い盛りの頃であった。当時私は田井谷山系の滝ヶ谷に炭を焼いていた。特に滝ヶ谷や横谷は深山幽谷の雰囲気で山深く入ると寂しい迄の静謐さと言うのか、髪の毛のしまる様な幽気を感じた。
 私が「つちのこ」に出会ったのは滝ヶ谷の本谷の「仁兵衛滝※」を降った下の小さな沢に桂の古木があるその下であった。当時その桂の木の上の平地に治右門さん(稔氏)が炭を焼いておられた。

※「仁兵衛滝」:その昔、仁兵衛(にへえ)という人が炭を背負ってこの滝で転落事故死されたと伝う


私が何気なくその桂の木の下の道を通った処、真っ黒の異様な生物が急いで桂の根元に入り込もうとしたのだ。私の足音に驚いたのだろう、いち早く頭部を木の下に隠して、私が発見し確認したのは頭を隠した体型であり全身ではなかった。けれどまぎれなき蛇の形状であり、色彩は古老の語った通り炭の色同様の真っ黒の物体であった。(古老の言によれば頭部は蝮に似て三角形)

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つちのこらしき生き物がもぐりこんだという桂の古木
背後には治右門さんの窯跡が見える


以後も、この桂の木を意識して道を通るときは緊張して、静かに歩行したが再び相まみえることは出来なかった。この桂の木の前を朝夕通過する治右門夫妻が気付く事がなく、偶々通り合わした私が発見したのだから摩訶不思議と云うのか、一寸信じて頂けない事態であるが、天地神明に誓って作為的な話でないことを断言する。
 
  
 
木炭の生産が廃れてから久しい年月がたつ。
私たちが慣れ親しんだ共有山系の山道も崩壊し、或いは流失して人跡未踏の山野に変りつつあることだろう。鬱蒼として繁茂した自然林も多くは人工林に姿を替えた。自然の生態系にも多少の変化は起きていよう。「つちのこ」の様な珍奇動物はその後どうなっているだろう。
一匹の生体が生存すると言うことは必ず一対の雌雄が存在すると謂う事だから。今も人煙途絶えた山野にひそやかに生息している事を信じたいし、亦生存していることを祈念して止まない。


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岩壁を穿って伸びる滝ヶ谷の道

 

 

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つちのことの出会いを参照しているブログ:

コメント

興味深く拝読いたしました。
数年前に亡くなった遠縁の親戚もつちのこを見たそうです。
今でも生息していると良いですね。自然の中の不思議は消えてほしくありません。

貴下のブログは山里の日常の暮らしの中に現代人が忘れれてしまいそうなものを伝えておられて貴重に感じます。これからも楽しみに拝読させて頂きます。

もったいないお言葉、恐縮です。
私が現地へ行ったとき、さすがにつちのこはいませんでした。

昨日舞鶴の方に行く用事があり、帰路足を伸ばして本堂にお参りしてきました。
葉を落としていた参道の木々の芽もふくらみ始め、青々とした山になるのを今から楽しみにしております。

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