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2009年3月18日 (水)

六十数年前のせせらぎの音

Seseragi_book
   「せせらぎ」(表紙は淳先生によるもの)

九良右衛門から出られた故杉左近重壽先生が、教職の傍ら「杉 左近」のペンネームで詩を書かれていた事をご存知の方もおられるかと思います。戦争が終わった頃川上分校でも教鞭をとられたので、直に勉強を教わった年配の方もまた多いのではないでしょうか。先生は分校での授業以外にも活躍され、三谷銀治さんを始めとする村の青年たちと「せゝらぎ会」なる和歌の会をつくり、貧しく娯楽の乏しかった終戦直後の村に、歌の明かりを灯されました。

せゝらぎ会の活動の中で当時20人の若者が詠んだ短歌は、それから約30年後の昭和56年に一冊の小冊子「せせらぎ」にまとめられ、今でも手にとることができます。

当時の川上には他にも「こだま会」という会があって、こちらは各々がワラ半紙などに書いた自作の小説や詩をコヨリで綴じて手作りの冊子を作り、それを回覧板のように家々に回して読むというもの。冊子には紐で繋いだノートが付けてあって、読んだ感想を必ず書いて次に回すと決められていたそうです。

この頃の若者の間では、詩や歌を書いたり弁論を発表することが盛んだったようで、佐分利村青年団でも「若草」という文集を作って団員の発表の場にしていました。


昼は炭焼きや野良仕事で汗をかき、夜は歌を詠み詩作に耽る。
貧しさと不便さを別にすれば、なんとも清らかで心豊かな暮らしに思えます。

Wakakusa
  佐分利村青年団発行の「若草」 第4号
  こちらの表紙の絵も若き日の淳先生が描かれています

 

 
話を杉左近先生に戻します。
先生の創作意欲は校長職を定年退職してからも衰えず、らくがき集と称した詩文集をいくつも自費出版されました。
祖母が先生の妹だったので、出版するたびにその冊子をいただいていたようです。家に何冊か残っているそれを、先日父に手渡されました。
読んでみると、詩や随筆のほかに川上らしき村を舞台にした童話もいくつか収録されています。
素朴な言葉で語られ、旧知の谷や山を舞台に繰り広げられるお話はとてもなじみやすく、長年飲み慣れた井戸水のようにすんなりと身体に染み透っていくような気がします。
これらの童話、「サンショウじいさん」、「ドロボウやない」、「仙人のおみやげ」も準備ができ次第、この場でご紹介していきたいと思います。

Sakon_book
          杉  左近詩文集


 

昨日はよく晴れた気持ちのよい一日でした。(黄砂を別にすれば…ですが)
最後に紹介する「せせらぎ」の最初の銀治さんの一句も、60数年前のこんな春の日に詠まれたのかも知れません。
歌というのはふしぎなもので、ほんのわずかな言葉だけで当時のその瞬間と時がつながるような、そんな錯覚に捕らわれるのです。

 

 

   快く 晴れし空なり 木を樵るを 忘れてしばし 打仰ぎゐし 

 

 

 

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