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2010年1月13日 (水)

「狐がえり」と「コト」(一)

『ふるさとへの絵手紙』番外編

善琢さんの絵手紙の中に『狐がえり』と題したこんな一枚がありました。

Kitune
川上の上方(かみがた)に“狐がえり”と云う

奇祭というのか風変わりな行事があった。

上方と中村の間(弥右衛門と今の弥兵衛の間)に

桑の木の大木があって、

其れにワラで作った蛇が掛けてあった。

持って来るとゆうか、送って来ると云うか

道中で歌なのか音頭なのか

大きな声で唱へ乍らかついで来た。

文句は覚えていないが、歌尻は

 何とか? 何とか? 何とか? するとて

 キツネがえりするわ

其んな言葉であった。

加助のカズオさんの声が一番よく聞えた。

木の下の奉納板に『天下太平 国家安穏』と書いてあった。

一度カズオさんに聞いてみたい。

 H17 善琢

 

 

初めて聞く言葉の『キツネがえり』

現在の川上では行われていませんし、

子供の頃にも参加した覚えはありません。

ということで、加助さんに聞きに行ってみました。

しかし、何せ60年程前のことだけに記憶も不確か。

老人会で他の人にも訊いてみる、とおっしゃって下さいました。

一週間後、メモを片手に訪ねてこられた加助さん。

宮さん掃除の折に訊いてまわられたのですが、

区内共通の行事でなかったせいか、はっきり覚えておられる方が

少なく、それも断片的な記憶がほとんど。

他の行事と混じっていたり矛盾があったりと

かなり骨を折って下さった様子。(どうもありがとうございました)
 
 
加助さんからお聞きしたその話をまとめると・・・

『狐がえり』は一年のいつ頃行っていたか定かではありませんが、

(旧歴の2月15日だったという古老の言もあり)

当時の川上では上方だけで行われていた行事です。

夕方、若者が鐘を叩きながら狐がえりの唄を大声で歌い、

区内から悪い狐を追い出すために上から下の方へ練り歩きます。

 

= 狐がえりの唄 =
 狐の寿司は七桶八桶 八桶に足らんとて 狐がえりするわ

 
 
一行が通ると、家々の人は表に出てきて

古くなった鍋輪と鍋つかみを道縁に捨てました。

行事と鍋つかみがどう関係あるのか、そのあたりは謎。

使い込んだ古い道具には魂が宿って妖怪になる、とか

そういう類いか?

ただ、この“狐がえり”にはワラでこしらえた蛇は登場しません。

これとは別に“コト”と呼ばれる若い男たちの行事があって、

ワラの蛇が登場するのはこちらだということでした。

川上にずっと住んでいる方々ですらはっきりと覚えていない

『狐がえり』だけに、善琢氏もこの二つの行事を

混同されたのかな・・・という方向でまとめようとしていたら、

先日同じおおい町の父子区のサイトで、『狐がえり』と

『コトの日』について書いてあるのに気がつきました。

 ちちしの炎

それによると、1月14日の夜に若い男衆が

その年の初寄り合いと会食をし、翌早朝ワラ束を焚くそうです。

狐を区から追い出すための行事と言われていて、

昔は「狐がえりの唄」を歌いながら区内を練り歩いた

ということですので、このへんは川上の上方と同じです。

そしてこの日は『コトの日』とも言われて、

新しい青年團員の入團の日だったそうです。

 

= 父子区の狐がえりの唄 =
 狐がえりがえりよ わら何するど
 若宮をまつるとて 狐がえりがえりするぞ
 狐のすしは七桶なから 八桶にたらぬとて 狐がえりがえりよ



ついでに岡安区の狐がえりも。

岡安の『狐がえり』は1月14日のお日待講のあと行われ、

太鼓を打ち鳴らすあとに子供たちがついて歩き

区内を巡回したそうです。

太鼓が来るとすすを塗りつけた鍋つかみと

鍋すえを戸外に投げつけました。

 

= 岡安区の狐がえりの唄 =
  狐がえり やがえり 狐の寿司は七桶八桶
  八桶がたらんとてギャギャ!と鳴いた


        
(参考文献:おかやす千年史 もみの木は見ていた)

  
区ごとに唄の文句が少し違っていて面白い。

拍子抜けすることに、万願寺区では今も『狐狩り』と称した

同様の行事を行っていると、つい最近になって知りました。

もっとも子供の数が少なくなってしまったので、

今は親も一緒に区内を回っているとのこと。

(残念なことに唄の文句を訊くのを忘れてしまいました)

 
こういう行事を今も継承している所もあるんだ、と感心。



>>つづく

Okayasu_book

参考文献とした岡安の“もみの木は見ていた”は成和の図書館にあります。
区の歴史と民俗が詳しくまとめられていて、とても参考になりました。

 

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コメント

毎回ながら味わい深いお話ですね…ゆわれがよくわからないというのもかえって趣きが感じられます。
昔の習俗を伝えていかれる努力にいつもながら敬服します。

懐かしいです
知人と祭りの話をしていて、調べていたら、このサイトを見つけてコメントさせていただきました
市は違いますが、私の土地にもありました
随分昔になりますが、小学生の頃、1月の2週目だったかな?週末に集まって、各家を回りました
少しずつ土地で歌が違うのですね
私の歌っていたものと、また少し違いました

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