寺(四)
哀れにも、主(鐘)を失くした鐘楼は、
山嵐しの通り抜けとなり
お匠の唱へる経も、風と共に侘しく消へる。
夢にも思わなかった事が起こり、
失意落胆、の筈だが戦時中の事、
為す術の無く、諦めるより仕方が無い。
お国の為になって呉れと、只経を唱へるのみ。
幸か不幸か日はめぐる。
戦争も終結して平穏となり、村も蘇る。
其処へ思いもよらぬ嬉しい便りが届いた。
ある篤志家より、鐘が寄贈されるとの事であった。
村人たちは天にも昇る心地で湧きあがった。
そして元の姿にかへった。
除幕され、最初に撞かれたのが宗隆お匠だったと思う。
読経もながながとつづいて、村の隅々まで伝わり
有難うと、手を合わして頭を下げた。
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