トチ(八)
碁とは其んなに面白いのだろうか、
雨でも降れば夜中まで遊んで来る。
ろくなもんでないが、そんでも無いと困る。
「ほう、綺麗な餅やねえ・・・」
「搗いたり延ばしたり、こんな事は男の仕事や、
はようのばしておくれ」
おとっつあん、がむしゃらで汗をかいている。
あれもせい、これもせえ で、とちめんぼうを振っている。
川上ではトチメッポウを振ると云っていた。
其のとちめんぼうには面白い謂われがある。
狼狽坊(アワテンボウ)とも言う。
栃の実(砕いて粉にしたもの)とうどん粉をまぜて延ばすのに、
栃麺の収縮より棒の扱い方が速くないと物にならぬ。
其の棒を振る様を『とちめんぼうを振る』と言うらしい。
そう云えば、おやじが棒を右に左に前にと
ふうふう言い乍らのばしていた様子が思い出される。
六十年余りも前だけど、親父の動作と鼻息がきこえて来る。
お母さんが横に座って仕上りを待っている。
「出来た」
おかあさんが小さく丸めたのを手にのせてくれた。
つづく
H17.9.13 善琢
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